ロンドンで活動するウィル・ウェスターマンのデビュー・アルバム『Your Hero Is Not Dead』(2020)からのシングル曲。アルバム・タイトル中の「Hero」というのは本作の制作時期に亡くなったマーク・ホリスのことだそうで、彼が率いていたトーク・トークからの影響も随所に見られる。
幼い頃には聖歌隊に所属し、有名寄宿学校のチャーターハウス・スクールで音楽理論、大学では哲学を学んだというウェスターマンの音楽はどの曲もクリーンで静謐で背筋が伸びている。しかし真面目すぎる人にかえって浮世離れしたところがあるように、いろんなところがなんだかちょっとずつおかしい。そのほころびから予想外に光が差し込んでくる。
ぎくしゃくしたリズムとヴォーカルの無表情なメロディで始まる「The Line」は、
Am I looking too closely Am I taking it too far I want to know about where the line is 僕は細かく考えすぎているんだろうか 話を大きくしすぎているんだろうか どこにその線引きがあるのかを知りたいんだ
という幾何学的な内省に至るあたりから少しずつ焦点が合ってきて、終盤にかけて心地よい官能に移行する。理屈の積み重ねだけで啓示に到達する哲学の美しさをそのまま音楽にしたかのような、不思議な感触のある作品。