坂本龍一「Solitude」

昨日、大島渚賞の第1回目となる記念上映会に行ってきた。ゲストトークでは審査員長の坂本龍一も登壇。主催者の説明によれば、コロナウィルスの影響でアメリカを一度出国してまた戻るのはなかなか大変らしいのだが、十分な熟慮と配慮のもと、今回来てくれたという。トークからは終始大島渚監督に対する敬愛の念が感じられた。

戦場のメリークリスマス』にしても、『ラストエンペラー』にしても、坂本龍一の映画音楽には、歴史や運命の抗しがたい力に支配された壮大な世界観の奥深く、核となっている部分に深い孤独を感じさせるものが多い。孤独だからこそ人は懸命に生き、他の人々を愛さずにはいられない。しかしその同じ孤独が人に過ちをも犯させる。「歴史や運命の抗しがたい力」というのは結局我々一人ひとりが抱える寂寥のことではないのか? やや単純化のきらいはあるけれども、私は彼の音楽にそのように孤独を中心に循環する世界を見てしまう。

村上春樹原作の映画『トニー滝谷』のサウンドトラック「Solitude」は、そんな循環をすべて削ぎ落として核だけを取り出してみせたような、彼の膨大なディスコグラフィの中でもかなり特殊な位置を占める曲であるように思う。驚くほどわずかな音数で構成されたむきだしの孤独(solitude)はもはや手のつけようのないほどに疲れ果て、人生に倦んで、長い時間をかけて作られた氷のように硬く冷たい。誰もこれほどまでの孤独に囚われてしまわなくてはならない理由などない。だが同時にそれは人間がここまで孤独になれるほど自らに由って生きられることの美しくも皮肉な証拠にもなっている。