二階堂和美「女はつらいよ」

先日、オンラインフェス「カクバリズムの文化祭」の一環として催された渋谷WWWでの二階堂和美と渋谷毅(この日が81歳の誕生日)のコンサートに行ってきた。感染症対策のため少人数が着席して聴く形式で、歌とピアノのみによる1時間に満たない小さなセットだった。

いつぶりかわからないくらいの生の音楽だったが、二階堂さん自身も人前で歌うのは3月以来とのこと。歌いながら何度か込み上げる場面があり、客席にも涙を拭う人の姿が見られた。ジブリ映画『かぐや姫の物語』の主題歌「いのちの記憶」、小沢健二から「この曲、ニカさんにあげるよ」と言われたという「大人になれば」のカバー(原曲のピアノは渋谷毅)、渋谷毅作曲だということを知らなかった懐かしい童謡「ぼくのミックスジュース」など、どんな曲でもその内側に入り込んで自分のものにしてしまう彼女のカメレオン俳優的な柔軟さと体幹の強さは唯一無二。しかし私にとって二階堂和美といえば、やはりアルバム『にじみ』(2011)であり、その収録曲でこの日も歌われた「女はつらいよ」である。

ジャズとも演歌ともつかない品の良い音楽に乗せて、出会いと別れを繰り返す『男はつらいよ』の物語を女性(マドンナ)側から語り直したこの曲(1番と3番は女性視点、2番は男性視点)。そのため扱われている男女観自体は旧来的というか寅さん的に特殊なものではあるが、ここには想いが交わることなく終わってしまった一連の出来事を「悔やんでもこのばかは/同じあやまちくり返す」と主体的に体験する女性の姿がある。かといって彼女に思いつめたところはない。『男はつらいよ』が描く社会に寅次郎のような存在を受け入れる柔らかさがあったように、彼女もまた自分自身の至らなさをあてどない漂泊への思いへ、移り行く日々の愛おしさの中へ、ゆったりと投げ出している。