The Smynths「This Charming Man」

ザ・スミンス(The Smynths)はシカゴのプロデューサー、ニッキー・フラワーズによるプロジェクト。その名の通り、ザ・スミスとシンス(synth=シンセサイザー)を融合させた音楽を演奏するカバー・バンドという設定で、これまでに『The Smynths』(2018)と『The Smynths Return』(2020)の2枚のアルバムをリリースしている。

愛着と嘲笑が半々くらいで混じった「お騒がせレジェンドおじさん」的な立ち位置でメディアやネットを賑わしてきたザ・スミスの元ヴォーカリスト、モリッシーだが、近年の幾たびにもわたるファシスト的、人種差別的発言のためにイギリス本国では本格的にうんざりされ始めているようだ。アメリカ人のフラワーズもそれと歩調を合わせるようにして、80年代初めにシーンを席巻していたシンセサイザー・ポップに対するアンチテーゼとして彗星のごとく現れたスミスの音楽(モリッシー自身も「シンセサイザーほど不愉快なものはなかった」と発言している)をシンセサイザーの海に引きずり込んでいる。わざわざ時間と労力をつぎ込んでそんなことをした理由について、「なぜならモリッシーはとんま野郎(dick)だからだ」と彼/彼女は語っている(フラワーズは男性または女性への固定的な分類を拒むノンバイナリー)。

ザ・スミスの成功にモリッシーと同程度かそれ以上に貢献しているジョニー・マーにとってはいい迷惑だろうが、ザ・スミンスの音楽はザ・スミスのソングライティングのエッセンスを浮き彫りにしたような純粋に良くできた作品で、モリッシーのシンセサイザーに対する見解が理不尽なものであったことを真面目に実証しながら、モリッシーの過去の栄光をこれでもかと冒涜しつつ、かつスミスの名曲群に対する美しいオマージュにもなっているという、三重くらいの意味で笑ってしまう。ぜひスーパーの食品売り場でよく流れているヒット曲のインスト・バージョンの1つとして採用されてほしいものだ。