Bill Fay「Filled With Wonder Once Again」「Salt Of The Earth」

2012年に40年以上ぶりとなるアルバムで復帰して以来、コンスタントに活動を続けているイギリスのシンガーソングライター、ビル・フェイが今年発表した『Countless Branches』からの2曲。

2枚のレコードをリリースしたもののさほど話題になることのないまま1971年にレーベルから契約を打ち切られ、その後はロンドンの公園で管理人をしたり、スーパーで魚のパッキングをしたりしながら日々自分のためだけに音楽を作っていたというビル・フェイ。90年代半ばにジム・オルークに発見されたことや98年に過去作品がリイシューされたことなどをきっかけに、徐々に著名なアーティストたちからの注目を集めるようになる。「僕に好きにならせるために実験室で作られたような音楽」と彼の作品について語るウィルコのジェフ・トゥウィーディーを始め、最近ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーウォー・オン・ドラッグズもライブで彼の曲をカバーしている。

その魅力のひとつは「世界」や「人間」や「時の流れ」といった大きすぎる主題のエッセンスに最短距離で切り込むことのできる音楽的な洞察力の深さにあるだろう。楽器の数も最小限になった『Countless Branches』ではそれがより如実な形で表れている。このところのボブ・ディランといい、70代後半になって身体の中にこれだけの音楽が残っているということ、そしてそれを現実に取り出してみせることができるということがどれほどの達成なのかを判断するには、自分の人生はまだあまりにも短すぎるような気がする。