ボストンの3ピースバンド、ペイルハウンドを率いるエレン・ケンプナーが自分のパートナーであるトランスジェンダーの男性について歌った曲。アルバム『Black Friday』(2019)に収録。
「あなたのお母さんはあなたのことをアーロンと名付けたかったけど/彼女の身体はあなたをそんなふうには作らなかった/ねえ、マイ・フレンド、もしそうしてほしければ私はあなたをアーロンと呼ぶから/そうするから、そうするから、そうするから」と彼女はジェンダー移行(性自認に合わせて外見を変えること。ホルモン療法や性別適合手術を伴うことが多い)の苦しい時期を通り抜けようとしている恋人に語りかける。
注目すべきは最小限の楽器で最大限の効果を上げる、工夫を凝らした曲構成だ。ドラムとベースは淡々としたギターを衝き動かすように寄せては返しながらダイナミックなうねりを生じさせ、ケンプナーの頼りなさの混じった優しい労りはいつしか確固たる慈愛に変化していく。オルタナティヴ・ロックの巧緻な技法を利用して多様な性のあり方を肯定する、新しい時代のラブソング。