カリフォルニアのオークランドを拠点とするテイラー・ヴィックによるプロジェクト、ボーイ・スカウツの『Free Company』(2019)から。
残りHPをわざと1の状態にして歌っているみたいな声は初め少し苦手に感じたが、エリオット・スミスが好きだという彼女の作る霞がかかったようなメロディーとハーモニーにはどこか癖になるところがあって、なんとなく聴き返しているうちにいつの間にかファンになってしまった。品の良い薄味の音楽で、短期間で多くの人を取り込むことは難しいかもしれない。でもそのぶん誰の日常のどんな時期にでも違和感なく寄り添えそうな間口の広さを持っている。
「Get Well Soon」の映像での彼女は少年のように透明で、あまりミュージシャンみたいには見えない。かと言って別の何かに見えるかというと何にも見えない。物語の主人公のように何者でもなく同時に何者でもある感じというのだろうか。初めて映像を観たとき、それまで歌だけしか聴いていなかった私は不思議に胸を打たれ、「ああ、なるほど」と合点がいったような気がした。