2004年にリリースされた未発表曲集『Calling Out of Context』で日の目を見た、アーサー・ラッセルの茫洋たるディスコグラフィーの中でも最もキャッチーな曲の1つ。当初収録予定だったアルバムは1986年から1990年にかけて制作していたが、折から患っていたエイズの病状が悪化したため、結局1992年の死まで完成に漕ぎつけることはできなかった。
「悲しいのに、僕がいま君の隣で一人でしていることについて話すことはできない。君も知っているだろう? 僕が君の身体に片腕を回さなきゃならないこと」という内容の歌詞を持つこの曲。ラッセルには独力で向き合わなくてはならないことがあるが、それはごく個人的なことで、隣に座っている一番大切な人とも分かち合うことはできない。そのこと以外に意識を向けられなくなっている彼は、親の愛情を信じて疑わない子どものように隣にいる人物に身を任せ、自分の行き先を委ねる。「Arm Around You」は欧米圏では珍しい、他者への「甘え」を描いた曲だ。
「僕は(回した腕で)君の顔の反対側に触るよ(I’ll touch the other side of your face)」という最後の謎めいたフレーズは、言葉を介さないやりとりだけが到達することのできる深い相互理解のようなものについて歌っているようにも聴こえる。他者との触れ合いが過去に例のないほど少なくなっている目下のコロナ禍において特別な響きを持つ歌でもある。