アーサーのデビュー・アルバム『Woof Woof』(2019)からの2曲。犬のように「自然で、愛らしくて、強くて、無知で、自己完結した」音楽を作りたかったとのことで、タイトルは犬の鳴き声になっている。だからというわけではないが、彼の曲を聴いていると、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』という小説のことを思い出す。
ペンシルヴェニアの森の中で大家族(7人兄弟であるようだ)とともに育ったアーサー・シェイは、カトリック系の学校にうまく馴染むことができずに家族とテレビゲームばかりしていたそうだが、途中から音楽を演奏して録音することの楽しさを知り、スピーカーから流れる音楽の中に神の存在を見るようになる。ゲーム音楽の他、ビーチ・ボーイズやダニエル・ジョンストンにも影響を受けているという。
とはいえこの人の音楽はほとんど他の何にも似ていない。彼の周りだけ重力の働き方が違っているんじゃないかと考えてしまうほど、曲の成り立ちや音の選び方が根本的に独特だ。そして21歳にしてすでに疑問の余地なく自分の世界が完成している。でもそれはある意味ではとても孤独なことなのではないだろうか。おそらくはそんな彼の孤独さが、完成した独特な世界の分厚い壁を越えて私のような凡人の琴線にも触れてくる。